観光地じゃないけれど心に残る道「ワイトゥイ」を360度写真付きで紹介

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ワイトゥイとは

沖縄本島の中部、うるま市勝連(かつれん)地区にある一本道「ワイトゥイ」は、静かな集落の中にひっそりと佇む農道です。

正式名称は「比殿農道(ひどぅんのうどう)」といいますが、地元の人々からは「ワイトゥイ」と呼ばれています。この「ワイトゥイ」は岩を割って取ったという意味に由来してします。

ワイトゥイは、全長およそ150メートル。数字だけ見ると短い道のように感じるかもしれませんが、その実態は想像以上に迫力があります。断崖を削って造られた道は、場所によって高さが20メートル近くにもなり、まるで岩山を貫く巨大な裂け目のようです。両側には自然の岩肌がむき出しになっており、人工的な加工の跡も感じられる独特の風景が広がっています。

道の幅は狭く、車がすれ違うには注意が必要な場所もありますが、現在も地元の人々が日常的に使っている現役の生活道路です。観光地として大きく整備されているわけではないため、ありのままの沖縄を感じることができるスポットです。

この場所の特筆すべき点は、自然の中にありながらも、人間の力で道を切り開いたという歴史的背景です。観光スポットというより、むしろ「生活と努力の痕跡」とも呼ぶべき道であり、訪れる人に静かな感動を与えてくれます。

周囲には畑や民家もあり、どこか懐かしい沖縄の風景が広がっています。観光地としての派手さはありませんが、それゆえに心に残る場所でもあります。

ワイトゥイの歴史

現在も地元の生活道路として使われている「ワイトゥイ」ですが、その誕生には深い歴史があります。造られたのは今からおよそ90年前、昭和初期の1932年。戦前の沖縄では、農地と集落をつなぐ道路が整備されておらず、多くの人が険しい山道や崖沿いの道なき道を歩いて農作業に通っていました。ワイトゥイがある勝連平安名(へんな)の地域でも同じ状況で、人々は農作物を背負って急な崖を登り降りしていたそうです。

この不便な状況をどうにかしようと立ち上がったのが、地元の青年団でした。村人たちは資金も機械も持っておらず、あったのは鍬(くわ)や石割棒のような簡素な道具だけ。それでも3年近い歳月をかけ、延長約150メートルにもおよぶ道を自力で切り拓きました。まさに「岩を割って通した道」、それが「ワイトゥイ」と呼ばれる理由です。

道を造るためには、固い琉球石灰岩を手作業で少しずつ崩していくしかなく、その労力は想像を絶するものでした。安全対策も整っていない時代、命がけの作業だったといわれています。中には作業中にケガをした人や、体調を崩した人もいたようです。それでも途中で諦めることなく、仲間同士で助け合いながら完成までやり抜きました。

完成した道は、当時の農業にとってまさに命綱でした。肥料や農具を運ぶのが格段に楽になり、作物の出荷もスムーズになったことで、地域の暮らしは大きく改善されたといわれています。戦後になってからも、この道は再舗装されながら維持され、現在までずっと使われ続けています。

現代のような重機や設計図がない時代に、集落の人々だけの力で造られた道は、それ自体が地域の誇りです。今ではコンクリートで舗装されていますが、道の両側に残る岩肌や、微妙に曲がりくねった形状が、当時の作業の痕跡を物語っています。

また、ワイトゥイは単なるインフラ整備の産物ではなく、「団結」と「自立」の象徴でもあります。誰かに与えられた道ではなく、自分たちの手で掘り、支え合いながら築き上げたもの。その精神は、今も地域の人々の心にしっかりと息づいています。

沖縄の観光地といえば、ビーチや城跡、リゾート施設などが注目されがちですが、こうした地域の暮らしの中にある歴史に目を向けると、また違った魅力が見えてきます。ワイトゥイには、観光ガイドには載っていない「本当の沖縄」が詰まっています。地元の人々が歩んできた歴史の重みを、ぜひ現地で感じていただきたいと思います。

ワイトゥイへのアクセス

うるま市の静かな集落に位置するワイトゥイは、観光地として大々的に宣伝されているわけではないため、事前に場所をしっかりと把握しておくことが大切です。まず、ワイトゥイがあるのは沖縄本島の中部、うるま市勝連平安名(かつれんへんな)という地域です。地図で探す際には「比殿農道」や「平安名上グスク」の周辺を目印にすると見つけやすいでしょう。

車でアクセスする場合、那覇空港からの所要時間はおよそ1時間10分ほど。沖縄自動車道を利用するなら、沖縄北インターチェンジで下りて、そこからは一般道を30〜40分ほど進むルートが便利です。道中は交通量が少なめで、南国の風景を楽しみながらドライブできます。ナビを使う際は、「平安名上グスク」や「平安名公民館」など、近隣の施設名を入力するのがおすすめです。

バスを利用する場合は、那覇バスターミナルから出ている「屋慶名(やけな)バスターミナル」行きの路線バスに乗車し、「阿武堂(あぶどう)」というバス停で下車します。そこからは徒歩で約10分ほどの距離にワイトゥイがあります。地元の人に声をかけて道を尋ねれば、親切に教えてくれることが多いので、土地勘がない方でも安心して訪れることができます。

ただし、ワイトゥイには観光客向けの駐車場が整備されていません。車で訪れる際は、少し離れた場所に駐車して徒歩で向かうのが現実的です。道幅も狭いため、大型車での進入は避けたほうがよいでしょう。現地では地元の生活道路として使われているため、通行の妨げにならないよう十分に配慮することが重要です。

また、訪れる時間帯にも気を配ると良いでしょう。夕方以降は周囲が暗くなり、街灯が少ないため、足元が見えにくくなります。見学するなら明るい時間帯、特に午前中から午後の早めの時間帯が理想的です。

最後に

ワイトゥイの写真

ワイトゥイは、地元の人々の努力と団結によって築かれた道です。今では観光地としての知名度こそ高くありませんが、その背景には歴史と誇りが詰まっており、訪れる者に深い感動を与えてくれます。

自然を切り開いて造られた一本道を歩いてみると、過去と現在が静かに交差するような、不思議な時間の流れを感じることができます。沖縄の観光といえば、美しいビーチや華やかなリゾートが注目されがちですが、このような地域の足元に根ざした場所にも、等しく価値があると気づかされます。

ワイトゥイのあるうるま市勝連平安名周辺には、ほかにも見どころが点在しています。たとえば、国指定史跡の勝連城跡(かつれんぐすく)は、車でわずか10分ほどの距離にあり、沖縄でも屈指の絶景スポットとして人気です。山の上に築かれたグスクからは、東海岸の美しい海を一望でき、まさに「天空の城」と呼ぶにふさわしい風格があります。

また、近隣には「海中道路」と呼ばれるドライブコースもあり、エメラルドグリーンの海の上を車で走るという、非日常の体験が味わえます。この海中道路を渡れば、浜比嘉島や伊計島などの離島にもアクセスでき、島ごとに異なる表情の自然と文化に触れることができます。

今回紹介した「ワイトゥイ」は、沖縄の歴史や暮らしに興味がある方におすすめなスポットです。もし勝連エリアを訪れる機会があれば、ぜひ時間をとって足を運んでみてください。きらびやかではないけれど、確かにそこにある「人の手で切り拓いた道」が、静かに語りかけてくるはずです。

沖縄の旅に、もうひとつの視点を加えてくれる場所。それが、ワイトゥイです。

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